長い墜落
ちょっと長くなるが聞いてくれよ. サム・ホーソーンを作り上げたエドワード・D・ホックの短編に「長い墜落」というのがあるんだ. それとはちょっと違うんだが, まぁかれこれ1時間ばかり落ち続けた男の話だ.
1950年のワイオミングでの話だ.
当時としては奇特なのかな. パラシュートが好きな奴がいた. 何でも空軍でパラシュート部隊に居たんだが, 訓練を続ける内にはまっちまって, 戦争が終わってもパラシュートを続けてるって話だ. それから一般市民にもパラシュートを教えてたそうだ. 飛行機の燃料費とか細かい話までは俺の知ったことじゃないので割愛する.
想像しているとおりだが, そいつが死んだときの話だ.
1950年の4月20日だったかな. 春にしては寒かったのを覚えてる. 飛行機がうちの農場の上を飛び回ってたんだ. 9時頃だな. 柵の修理を親父から頼まれて直してたら, 人が降ってきたんだ. 大変だったよ. 牛の上に落ちたんだが, 牛も人もあったもんじゃない. 牛の代金をどこに請求したらいいんだと考えて, 気持悪いながらも近づいて色々調べたんだ. もちろん, 飛び出してきた親父に保安官への連絡は頼んだ. よくよく見るとそのモト人だった物体は, 何かベルトに袋が付いていた. 金目のものでもあったらガメるかと思って袋を広げてみたら, それはただの大きい袋だった. それでやっと気付いたんだが, その落ちてきた奴は近くの街のパラシュート好きな奴だったってことだ. しばらくすると保安官が来て, 色々やってたよ. 気持ち悪いそれはうちの牛と一緒に検死に持ってかれてたな. で, その気持ち悪いそれが無くなると, 保安官が来ておかしなことを言うんだ. 「飛行機のパイロットが言うには, そいつは8時に飛行機を飛び出したらしい. 落ちてきたのは本当に9時頃だったのか?」ってな. 本当だとしたらそいつはかれこれ1時間も空中で何をしていたのか分からないってこった. で, 俺はふと気付いて保安官にいってやったよ. 「保安官, お前は馬鹿か?」
どうしようもないオチなんだけどね. そいつが落ちたところは, つまりうちは, ネブラスカ州だったんだよ. ただそれだけさ. まだ解らないって? 時差だよ時差. ネブラスカの方が1時間遅いんだ. 隣の街があるワイオミングで8時のとき, ネブラスカでは9時なんだよ.
本当にどうしようも無いネタ. 俺が知る限りでは前例は無いと思うし, そう願いたい. 「長い墜落」は今から読む.