Futura

野々村
編集長と紺野さんの打ち合わせは傍で聞いていると本当におもしろいですよね。たとえば、ウエダハジメさんのまんがのフォントの一部には、ヨーロッパではあるシリアスな理由で使用が忌避されているフォントをあえて使っているとか……。
編集長
うん、ドイツ語の部分でね。今回は立派な必然性があると判断して、その「FUTURA」というフォントをあえて使用させていただきました。このあたりのフォントをめぐるこぼれ話は本当におもしろいから、また紺野さんをゲストに招いてどこかでイベントでもやりたいね。

(前略)
日本だけで聞かれる、「Futura はナチスを連想させるため、ドイツやユダヤ人社会ではタブー」という変な噂について、各国の著名デザイナーにインタビューした結果、そういう事実は無かったという事を『デザインの現場』2004年10月号や私の本『欧文書体』で書いたが、その噂は今はどうなっているか調べてみたくなった。インターネットで検索してみると、まだその噂は消えてはいないようで、「履歴書の書き方」のホームページにその注意が載っていたり、別のところでは「ドイツに送った本が Futura で組まれていたためアメリカに返品された」という話が書いてある。
普通にドイツで生活していると、そんなことはまったくない。Futura は昔も今も人気の書体です。
(中略)
『デザインの現場』の記事をまとめるため、いろんな人に意見を聞いてまわったことがある。クリストファー・バーク( Futura のデザイナーであるパウル・レナーの生涯を一冊の本にまとめた)の意見のなかに、「政治的意味が書体につきまとっていることなどあり得ない」と書いてあった。全くその通りです。彼は「Futura はタブー」という噂に対してかなり強い調子で否定していて、「じゃあフォルクスワーゲンはナチスの車としてイスラエルでは禁止されているとでもいうのか?」と書いている。書体は、車とかお皿とかスプーンとかみたいな、ただの「道具」なんです。ちなみに、フォルクスワーゲンが使っている制定書体も Futura をベースにしたもので、ほとんど Futura と見分けがつかない。
(後略)